―第3部 投機的な上位証券
2012年03月19日
P407 未払配当を重視しすぎる危険性 (1)
このようなことは、
証券分析を進めていけば分かることであるが、
いったんギャンブル的なムードが支配的になると、
一般投資家は、
このような単純な事実でさえも、
わからなくなってしまう。
このように、
多額の未払配当を持つ優先株は、
しばしば、
市場操作に利用され、
そこでは、
累積配当が、
優先株と普通株の値段をつり上げる材料とされる。
その典型例のひとつが、
1928年の、
アメリカン・ジンク・レッド・アンド・スメルティングの、
株価であろう。
アメリカン・ジンクの優先株は、
1916年に、
普通株の株式配当の一環として、
旧普通株を、
新しい優先株と普通株に、
分割することで生まれた。
この優先株の表示額面は、
25ドルであるが、
額面100ドルの優先株が持つ、
あらゆる条件を備えていた。
(6ドルの累積配当、
償還・清算価格も100ドル)。
こうした方法が取られたのは、
バランスシートに優先株と表示すれば、
実際よりも、
負債額を圧縮して記載できるからである。
同社は、
1920〜27年に、
連続して営業赤字を計上し、
(1922年に、
わずかな黒字決算となった)、
1921年に、
優先配当が停止されたため、
その累積配当は、
1928年までに、
1株当たり約40ドルになった。
1928年には、
業績が徐々に回復したが、
その収益は、
優先株1株当たり6ドルの水準にとどまっていた。
しかし、
同社の株式は、
市場操作の標的となり、
優先株は、
1927年の35ドルから、
1928年には118ドルまで急騰、
普通株にいたっては、
6ドルから57ドルに大化けした。
こうした株価の暴騰をもたらしたのは、
累積配当が支払われる、
といったうわさであった。
もちろん、
このうわさが現実になることはなかった。
こうしたギャンブル的なムードの非合理性とは、
優先株と普通株の価値のベースとなる未払優先配当、
といった根拠のないうわさが、
多くの投資家に受けいられることである。
普通株に対する投機的なプロセスとは、
次のようなものであろう。
「累積優先配当が支払われるらしい。
これは普通株には好材料だ。
したがって普通株は買いだ。」
こうした支離滅裂な理屈とは正反対に、
もし、
普通配当に優先する優先配当が、
未払いであるならば、
(たとえ、
普通株と優先株が、
ほぼ同じ値段であっても)、
それは普通株にとっても悪材料、
と考えるのが普通であろう。
こうした状況の下では、
累積配当の支払いについて、
具体的な計画が発表されることなど、
まず考えられないからだ。
参考♪